「みちのく」 かの子 49歳の作品 1938年(昭和13)「雄弁」9月号初出
朗読時間:14:17 読み手:YH
父親や親戚に婿をとるよう責められたが、こればかりはお蘭はうべなわなかった。四郎が伝え聞いたらどんなに落胆するであろう。この心理がお蘭には自分ながらはっきり判らなかった。お蘭の玉の緒を、いつあの白痴が曳いて行ったか、・・・
私は、不思議な人情をくぐった老女の顔に影のように浮く薄白いような希望のいろを、しみじみと眺めた。・・・
北海の浪の音を聞いていると、私はこの老婦人と一緒に永遠に四郎を待つ気持になれた。烏賊つり船の灯が見え始めた。